紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp 
ホーム メールマガジン リンク集 サイトマップ 更新情報 研究所


 三重県のため池の生物

 モノサシトンボ

 モノサシトンボという名前から、文字通り物差しを連想する。小学生が筆箱に入れる一番短い物差しでも15cmはあるが、モノサシトンボのサイズはそんなに大きくなく、頭の先から腹部末端までの体長は3.8〜5.1cmであり、春から初夏にかけての個体は夏の遅い時期の個体よりもやや大きい。モノサシトンボの細長い腹部には節ごとに白い斑紋があり、物差しの目盛りのように見えるので、モノサシトンボという名前が付けられたというのも合点がいく。モノサシトンボを野外で観察していると、体色が黄色っぽく見えるのと、淡青色がかって見えるのに出会う。モノサシトンボの未熟成虫は黄色の地色をしているが(写真上)、オスは成熟してくると淡青色に変わり(写真下)、メスは淡緑色になる。モノサシトンボに酷似する種類としては、同じモノサシトンボ科のオオモノサシトンボがいるが、これは絶滅危惧種なので出会うのは難かしい。

 筆者は現役時代につくば市にある農業環境技術研究所に勤務していたが、そこでは、ため池環境と生息するトンボの種類との関係についての研究がなされていたが、研究者の1人に茶飲み話に「トンボの種類の多いため池の指標種となるようなトンボとしてはどんなものが考えられますか」と聞いたことがある。この時に、モノサシトンボの名前も出てきたのが頭の隅に残っていて、退職後にため池のトンボ観察をしている時に、モノサシトンボを実際に見てみたいという思いがあった。

 津市内のため池のうち、6箇所のため池で2006年から2008年にかけて毎月トンボの種類を観察したが、最初にモノサシトンボに出会ったのは、複数のため池が連なって存在するあるため池群で、池周辺の林間の小径であった。モノサシトンボが、木陰になった道端の雑草の間を飛びながら行き来していた。この時、思わずデジカメで夢中になって写真を撮った。
      その後、津市街に近いため池群の1つでも、林間の下草を行来しているモノサシトンボに出会った。モノサシトンボが生息する場所はため池の周辺に樹林のあるような環境であると言われている。しかし、そのような環境にあるため池で必ず観察されるということでもなかった。

 モノサシトンボの生息環境は、平地や丘陵地の池や沼で、未熟成虫は岸辺に木立があるやや薄暗い環境を好む傾向があり、ここで餌(ユスリカなどの小さな昆虫)を獲る。成熟したオス成虫は水辺の草に静止しながら縄張りを作り、早朝に交尾を行う。雌雄が連結した状態で水面付近の水草の組織内に卵を産み付けるとされている。

 コラム
 

 農業環境技術研究所の生物多様性領域の研究成果を見ると、ため池の環境とトンボの種類との関係について調査し、統計的解析を加えたものがある(下記の@、Aの2つの研究成果)。モノサシトンボについて見ると、@では、その生息環境として、ため池の周辺に木立があり、池に堆積物が多いという特徴が挙げられている。Aでは、飛翔力があまり強くないモノサシトンボの生息環境として、近接するため池が多いという特徴が挙げられている。筆者の調査でも、モノサシトンボを観察したため池の環境は、複数のため池が近接しており、岸辺が全面的にコンクリート化されておらず、樹木が池の周囲にあり、木の枝が池面に張り出して落ち葉が池に堆積するような所であった。これらの特徴は、上記の研究成果の解析結果とよく一致していた。

農業環境技術研究所・研究成果情報へのリンク
 @トンボの生息環境としてのため池の特徴 
 Aため池の多様なトンボ類を守るためには、池の環境だけではなく池の配置も重要です
「イトトンボ類の写真」へ
「ため池の観察」へ
「ホーム」へ